現代日本人のドライな死生観-「葬儀も、お墓も要らない」と言える理由

20~30年ほど前までは日本人の一般的なお葬式は高額な費用をかけて大規模に行い、遺骨をお墓に埋葬する方法が一般的でした。実家のお墓を持たない人であれば、公営霊園や寺院墓地などに高額な費用を支払ってお墓を建てていました。

これに対して最近の日本人は簡素なお葬式を行って安価な費用で利用できる納骨堂や合祀墓を利用したり、自然葬(樹木葬・海洋散骨)を選択するケースも増えています。現代の日本人のお葬式や埋葬方法が大きく変化した理由として、ドライな死生観が関係しています。

従来の日本人の死生観とお葬式とは

古来より日本は仏教国であり、ほとんどの日本人は仏教の教理にもとづく死生観を持っていました。仏教の教えによれば、人が死ぬと仏となって先祖がいるとされる「あの世」に行くと考えられています。お葬式ではお坊さんを呼んでお経を唱えてもらいますが、これは亡くなった人が無事に成仏できるようにするという目的があります。遺体を火葬するのは、煙とともに肉体への未練を断ち切って天上界に送って成仏を促す、という意味があります。

仏式葬儀(通夜・告別式・火葬式)を終えた後も、命日から49日目に菩提寺の住職にお経を唱えてもらう四十九日法要が行われます。仏教の教えでは命日から49日目に裁判が行われ、死者が「あの世」で極楽浄土に行けるかどうかが決まります。この日に法要を行うことで、故人が無事に極楽浄土に行けるように推薦をするという意味があります。従来の日本人は、死者のために多大の労力や費用を費やすといったことが普通でした。これは、亡くなった後も関係を保ち続けたいという“ウェット”な考え方の表れといえるでしょう。

宗教的な思想にもとづくお葬式・埋葬方法

従来の日本人のお葬式は火葬後の遺骨を実家の菩提寺にあるお墓に埋葬しますが、これも古来より伝わる宗教的な思想にもとづいています。

日本人はイエ(家)を中心とする伝統的な思想(神道)を持っており、結婚やお葬式では家が重視されます。亡くなった後も家族一員であることに変わりがないので、先祖と一緒に居るために先祖代々伝わる家のお墓に埋葬します。遺された家族には実家のお墓を守り続けることが義務とされており、現代であれば定期的に掃除をしたり霊園の管理費を負担することによって義務を果たします。家ごとに埋葬をすることで親や祖父母の供養をすることが可能で、亡くなった後も家族の一員であることを自覚できます。

イエを重視する日本人は、多額の費用や労力を負担してもお墓を守り続けます。このように日本人の伝統的なお葬式は仏教や神道の影響を受けており、宗教的な思想によって形成されてきたものといえます。宗教的な教理に影響されない現代人であれば多額の費用をかけて仏式のお葬式をしたり、手間暇かけてまで実家のお墓を守る必要性を感じないでしょう。

現在の日本人の死生観がドライになった別の理由

従来の日本人の死生観は伝統的な仏教や神道の教えにもとづいており、葬儀や埋葬方法(仏式葬や先祖代々伝わるお墓に埋葬することなど)を行ってきました。これは、死後も故人との関係を保ち続けたいというウェットなものです。現代の日本人は死生観や故人に対してドライな考え方を持つ人が増えており、このような価値観はお葬式や埋葬方法の変化に表れています。

昔の日本では身分制度が存在しており、今の自分の立場は先祖のおかげ、という考え方を持っていました。特に支配者階級であった貴族や武士はこの傾向が強く、多大の費用をかけて立派なお墓を建てて先祖を供養することが普通に行われてきました。現代の日本では身分制度が存在せず、現在の自分の立場・境遇は自分の学歴や努力をすることによって得たもの、という考え方があります。そのため、わざわざ手間暇や費用をかけてお葬式をしたり立派なお墓に埋葬をする必要を感じることがありません。これに加えて核家族化が進み、イエという考え方も薄れています。これにより現代人は先祖との関係がドライになり、お葬式や埋葬方法が簡素になっています。

ドライな死生観を持つ日本人の新しいお葬式とは

ドライな死生観を持つ日本人の新しいお葬式とは

現代の日本人の価値観は伝統的な仏教や神道の教えによる影響が薄れており、先祖との関わりあいもドライになっています。これに伴い、簡素でお金をかけないお葬式を選択するケースが増えています。一般家庭では、通夜・告別式を行わない直葬プランを選択するケースも珍しくありません。告別式を行う場合でも従来の伝統的な仏教やキリスト教式ではなく、無宗教の「お別れ会」という形でセレモニーを行うケースもあります。

埋葬方法についても、先祖代々伝わるお墓ではなくて自然葬や合祀墓などを選択するケースが増えています。中には遺骨を受け取らずに、遺灰と一緒に火葬場に処分を依頼する人もいるほどです。自然葬・合祀墓に埋葬をしたり遺骨を受け取らないということは、お墓参りをするつもりがないということを意味しています。このような埋葬方法は、お葬式が終わった後に家族は亡くなった人との関わり合いを完全に断ち切ってしまいたいというドライな考え方の表れといえるでしょう。

まとめ

日本人の死生観は、宗教的な信条や社会情勢に大きく影響されてきたといえます。江戸時代以前の封建制度の下においては自分や家族の立場・境遇は先祖のおかげであると考えられており、先祖との関係を保つための葬儀・埋葬方法が選択されました。

現代の日本人の価値観は宗教的な教理の影響が薄れていることに加えて、自分の置かれている立場は自分自身の努力の結果であると考える人が大多数を占めています。そのため先祖との関係がドライになり、簡素な葬儀や埋葬方法が好まれるようになったといえます。

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